BBCシェイクスピア全集を制作するにあたって、参考文献として購入したなかに「シェイクスピア大全」というCD-ROM版の電子書籍がありました。当時はその破格ぶりに気づいていなかったのですが、電子書籍の黎明期に出現したこの本には、日本のシェイクスピア翻訳の歴史がまるごとパッケージされているのです。坪内逍遥の歴史的な訳文から、福田恆存、DVD全集の監修者の小田島雄志先生の訳、そして2020年に全訳を完成された松岡和子氏のものまで、なんと135もの翻訳が含まれています。他には森鴎外によるマクベス、劇作家の木下順次、久米正雄、英文学の中野好夫、高橋康成。シェイクスピアの英文が、翻訳者によって、またその時代によってどのように雰囲気や解釈に違いがあるのかを、HTMLに似た構造のテキストを縦横にたどりながら鑑賞できるのです。
ただし、この電子書籍を読むためのT-TIME というソフトは更新がストップしており、開発元のサイトでももやは提供されていない状態。CD-ROMに添付されているソフトは初期バージョンのもので、Windwos 11だとうまく動作せずおかしな挙動になるようです。筆者は幸いにも、過去に開発元が提供していた T-Time 5が古いPCに残っていたため、今でも自由にこの大全を探索できています。サブスクのサービス終了というトラップも怖いですが、電子書籍の場合、読み出すソフトが入手できなくなってしまうという怖さがあります。紙による大全というものはないようなので、この「すごい書籍」を含め古い電子書籍もカバーするソフトが出てくればいいんですが。

